東京高等裁判所 平成10年(う)2001号 判決
本件は,中国国籍を有する被告人が,他の同国人らと共謀し,平成10年4月25日ころから同年5月29日ころまでの約1か月の間に,3回にわたり,パソコン,スキャナー,プリンター等を使用して外国人登録証明書3通を偽造したという有印公文書偽造3件の事案である。
被告人は,偽造旅券を用いて入国し,不法就労を続けていたところ,より安易に金儲けすることを企図し,プリントゴッコ等を使用して外国人登録証明書を偽造していた同国人のAに謝礼金を支払ってその偽造方法を教えてもらったが,パソコン等を合わせて使用すれば更に精巧なものが偽造できると考え,別の同国人留学生の助言を得てパソコン等を購入して同人からその操作方法を習い,パソコンのハードディスクに外国人登録証明書の表面及び裏面の画像を記憶保存させるなどの準備をした上,8人くらいの同国人に偽造の外国人登録証明書等を入手することができるなどといって販売の仲介依頼をし,その注文に応じて外国人登録証明書の偽造を繰り返していたというのであり,本件は,そのような多数回にわたる職業的犯行の一環としてなされたものであって,犯行動機に酌量の余地が全く見当たらない。犯行態様はパソコン等を利用するなどした巧妙なものであり,その結果作成された本件の外国人登録証明書は一般人には容易に本物との区別がつきにくいほど極めて精巧に偽造されている上,模倣性が高い犯罪であって,犯情が甚だよくなく,悪質である。被告人が強盗の被害に遭ったという偶然の事情から本件犯行が発覚したため,幸い犯行が短期間に費用倒れの結果に終わったものの,そうでなければ,多数の偽造外国人登録証明書が社会に出回っていたことは明らかである。近時,不法入国者や不法残留者が増加し,これらの者が不法就労を行うだけでなく,薬物密売等の犯罪行為にも及んでいることが大きな社会問題となっているところ,外国人の居住関係及び身分関係を明確にして在留外国人の公正な管理に資するために発行される極めて重要な公文書である外国人登録証明書を偽造する本件犯行は,これらの犯罪を助長する結果をもたらすものである上,我が国における外国人の入国・在留管理行政の根幹を揺るがすものであって,極めて反社会性の高い犯罪であり,かかる犯罪に対しては厳しく対処すべきであるという社会的要請には大なるものがあるというべきである。加えて,被告人は,逮捕当初,犯行を否認していたばかりか,今でもなお人助けのためにしたことであるなどと供述しており,反省の弁には心許ない面がある。こうした事情に照らすと,被告人の刑責は重大であり,他面で,被告人が一応反省の態度を示していること,我が国における前科,前歴がないこと,故国で両親や婚約者が早期の帰国を待ち望んでいることなど被告人のために斟酌できる事情を十分考慮に入れても,本件は到底執行猶予が相当の事案といえないことは明らかで,原判決の量刑は軽きに失し,是正が必要である。論旨は理由がある。